グノーグレイヴ₋愚弄具現₋
何の変わり映えもしない、予定調和な『未来』。
村崎色の期待を裏切ることもなく、変えることのできなかった『未来』。
――グレイヴが蔓延した恐ろしい神保町で住民たちは過ごしているのである。
彼らにできることは、村崎色の望む強者になるしかなかった。
「誰にも負けない才能を開花させること。たったひとつで良い。それ以外はすべて負けでもいいが、一点に限ってならば誰にも負けない武器を持て――」。
自分にしか出来ない仕事を持つこと。
それに向かって努力すること。それが、今の兵たちには必要なことだった。
考えたこともなかった自分の才能。将来、当り前のように上場企業に入社し、結婚し、子供が出来、役職を貰い、生を全うすると言う大まかな未来予想図ではなく、どれだけ括りを細分化させ、目標に向かって『能力』を備えることだった。
――グレイヴは、その為に生まれた。
神保町に生きる者たちは、各々の『能力』を開花させていく――
・浅葱子規―あさぎしき― 50歳 ゲルクラーチ課課長。
元医者であり、『グレイヴ』を理解した秀才。時折見せる集中力はずば抜けており、ここぞと言う時の決断力や判断力は高い確率で成功する。
しかし普段はやる気を見せることがなく、図書館に行って本を読んでいることもある。しかし、メリハリが激しく、部下には厚い信頼を置くため、
部下が対する課長の評価は高い。
グノーグレイヴ:『図書館に住む仙人―Grave Canceler―』
地獄を理解し、天国へ辿り着いたものだけが手に入れることが出来る『グノーグレイヴ』。相手の『グノーグレイヴ』を瞬時に解読し、効果を無力化することができる。
しかし、解読するまでに膨大な集中力が必要な為、その間は無防備状態になる。
・吟醸松梅―ぎんじょうしょうばい― 59歳 ゲルクラーチ課警部。
本部の一線で活躍していた刑事一筋であり、長年の経験と勘は時に誰にも負けないほど早く現場指揮をとることが出来る。
『グノー』に関わったことにより、定年間近にして『グノー』に対する熱い信念を燃やしており、
『エムシー販売店』関係の事件を解決させることが自分に課せられた最後の大仕事と課している。
本人の希望により本部から移動になり、好美町にある『グノー』対策支部、『ゲルクラーチ』課に配属となる。
グノーグレイヴ:『身張り―barrier―』
身を呈して仲間をかばうことができる。鍛え続けた吟醸の身体能力は『グノーグレイヴ』を受けても簡単には通さない。
また、相手の行動を遅くすることが出来、隙を生ませる目的も兼ねている。
グノーグレイヴ:『張り込み―focus lens―』
吟醸が手に入れた『グノーグレイヴ』。長年の経験と勘により、瞳に映したものの次の行う動作を感じ対応することが出来る。理解しているのではなく、危険察知能力。
吟醸からイニシアチブをとることは難しく、吟醸の前から逃げようとするのならば、一歩先駆けて追いかけてくる。
しかし、『未来』へ行くことが出来る村崎色の『純粋とは矛盾色』の前には敵わない。
・(左)高峰順子―たかみねじゅんこ― 47歳 ゲルクラーチ課巡査部長
・(右)新暁子―あたらしあきこ― 34歳 ゲルクラーチ課巡査
長年のコンビをしている女性警察官。『グノー』に関わった経験があり、『グノー』に対する執念は誰にも負けない。
陣保市が平和になることを望んでいる。
グノーグレイヴ:『規則正しい勤務時間―8count restriction―』
高峰順子が手に入れた『グノーグレイヴ』。相手を逮捕し身柄を拘束する。順子が拘束するのは相手の時間そのものであり、能力を発動してから8秒間、
相手の動きを停止させ、残り2秒で逮捕する。
グノーグレイヴ:『規則正しい生活時間―16count open―』
新暁子が手に入れた『グノーグレイヴ』。相手の口を16秒間開けさせることができ、真実を強制的に語らせる。主に事情聴取の時に役に立つ。
しかし、握出紋の『亡き営業部長の座』には敵わない。
・(左)花園明日香―はなぞのあすか ― 21歳
・(右)花園今日香―はなぞのきょうか― 21歳
双子の女性警察官。ゲルクラーチ課内で最年少だが、職務三年目で篤弘、陽乃の上司である。
体力、知識、経験は上の四人よりは劣るが、それぞれが持ち前の体力と知識を補う事で実力以上の腕前を発揮する。
コンビネーションは高峰順子、新暁子以上である。
グノーグレイヴ:『花蓮―train-train―』
花園明日香の『グノーグレイヴ』。体内の筋肉を一点に集め、爆発的な一点集中打をお見舞いする。
グノーグレイヴ:『紅蓮―brain-brain―』
花園今日香の『グノーグレイヴ』。体内で蓄えられた知識を集め、現場での臨機応変を担う。浅葱子規の参謀役として任務に就くことがある。
グノーグレイヴ:『蔵蓮―call-S-rain―』
花園明日香、今日香の『グノーグレイヴ』。二人の中身を入れ替えることが出来る。その時の『花蓮』と『紅蓮』は魂と繋がっている為、
中身を入れ替えた場合でも供に持ち越すことができる。
・須藤篤弘―すどうあつひろ― 32歳
本部からの部署移動により『ゲルクラーチ』課に配属された若きエリート。卒がなく任務をこなすが口下手であり、寡黙なイメージがある。
『グノー』に関わった経験はなく、持ち前の肉体バランスのみで相手を追いつめることが出来る。
『グノーグレイヴ』に頼った者には絶対に負けることがない。
・小池陽乃―こいけひの― 23歳
今年入社した新人警官。そしてかつて高峰順子と新暁子に助けてもらったことのある人物である。
まだ警察署内も分からないことだらけであるが、早く一人前の警察官になろうと必死に勉強に勤しんでいる。
『グノー』に関わったことのある人物で最も才能を発揮させるのが遅いことにコンプレックスを抱いている。
グノーグレイヴ:『向日葵の写輪―Thousand I's Copy
Writer―』
小池陽乃が開現した『グノーグレイヴ』は、相手の能力を一度見ると同じように使うことが出来るようになる。
最初は真似でありながらも繰り返し使い続けていくことでオリジナルとして使えるようになる。
ただし、能力をコピーしている間、相手から目を背けることをしてはならないので、陽乃が自身の能力に気付くことは相当後になってからっである。
■ストーリー紹介■
グノーグレイヴ年表 | |
2013年12月 |
第零章『非労働者対策支援法案』 |
2014年 4月 | 小池陽乃、『グノーグレイヴ対策部署、『ゲルクラーチ』課配属』。第一章『麻薬及び向精神薬取締事件』 |
6月 | 第二章『女子高校生拉致監禁事件』 |
7月 | 第三章『未成年風俗営業取締事件』 |
9月 |
第四章『阪松少女ストーカー事件』 |
11月 | 第五章『覚せい剤取締事件』 |
12月 | 第六章『ゲルクラーチ窃盗事件』 |
2015年 2月 |
第七章『陣保市無差別殺人事件』 第八章『エムシー販売店独占法事件』 |
3月 | 第九章/怪盗ツインテール事件 |
4月 | ・・・宇宙人、襲来。 |
非労働人口にすら含まれない存在。社会に存在しない若年無業者たちは、その姿を見ることが出来なかった。
彼らは社会に復讐するため、存在を消すことを良いことに、外に出て悪さをし始めたのだ。
事は急を要する大事な法律を通すため、ゲルクラーチ課就任初の任務が始まる。
第一章/麻薬及び向精神薬取締事件
春はすぐそこまできていた。しかし、依頼した女性は――知らない間に春は終わっていた、と言った。
まるで時間が飛ばされたよう。千切れた雲は自分の身が千切れたことなど気付かずに消えていき、
消えた蝋燭の火は、自分の火が消えた瞬間など分からずに消されていく。
この世界に時間軸など意味がない。幅も必要―い―らない縦×横の二次世界。
身体が急に熱くなったのは、体温が熱くなる夏が急に訪れたからなのだ。
「おまえ、なんの薬をヤっている―――?」
……浅葱子規はつまらなそうに彼女の話を吐き捨てた。
第二章/女子高校生拉致監禁事件
目的の無い歩き。ただ、なんとなく、で放課後町を徘徊する。
どこにいく?という明確な答えもない。それはまるで地に足を付いて歩いていない空中散歩。
「空に行こうよ。あの夏へと続く雲に隠れた大空へ!」。
私の言葉に賛同した子もいれば、笑って阿呆と罵る子もいる。
私たちは最近では珍しくもない家出娘。居たくもない家を飛び出して仲間とつるむ『普通』の高校生。
「きみたち、おじさんと一緒に、空へと旅立とうじゃないか」。
だから、私たちに気安く声をかけたこの爺の方が、ありえないほどの異常者なんだ。
第三章/『未成年風俗営業取締事件』
朝と夜では別の顔。化粧一つで顔は変わる。
化粧の面白さを知った少女たちは、大人顔負けの容姿を手に入れた。
大人の仕事に働いて、水商売で金を稼ぐ。
お金をつくりだすことはとても簡単。大切なものを失う代わりに手に入れられる至福の財産。
ある日、『ゲルクラーチ』課を訪ねてきた少女はマスクにサングラスという格好だった。
この時期あまりに不自然で、職務質問するように少女に問いかける。
少女には、顔という部品がすべて流れてしまったように失っていた。
のっぺらぼうの少女の顔は、やってはいけない少女の罪として刻みつけられていた。
第四章/『阪松少女ストーカー事件』
――危害を加えるつもりはない。
行く方向が一緒のだけ、帰る方角が同じだけ。
辿り着く先が同じ場所なだけ。目的地までの所要時間は片道2時間15分。
――なんでそんなに怯えてるのさ?
話しかけているわけじゃない。なにか困って助けを求めれば、僕はすぐに駆けつけよう。
困っている時は一緒に立ち止まろう。決して僕はきみは見捨てない。僕はきみの正義の使者だ。
紳士の笑顔で一方的に微笑みかける。だから安心してお家に帰ろう。
――もちろん、お家の中にも危険がいっぱい。僕はいつもきみを見てるよ?
僕にはきみが必要だ。きみは僕を必要とする。
四六時中放れることはないよ。――僕はきみを監視する安全なる最終防衛機械。
第五章/『覚せい剤取締事件』
「陣保市は本当に毒されているな。ガスマスクが売ってないのが不思議なくらいだ」
空気が澄んでいて、空が蒼くて、海が碧くて、木々が青々としているにも関わらず、子規はそう漏らした。
私は耳を疑った。口の中が渇いて呂律が回らなくなるくらいに息苦しい。
「・・・ほんとう、嫌になりますよね――」
明日香も今日香も、松梅ですら子規の話に賛同する。自分がまだ毒されていないだけで、社会は既に穢され、薄汚れていた。
「『グレイヴ』に頼らなければ生きていけないなんて・・・」
自分の意志を曲げずに作り変え、能力として開花した精神中毒者。
彼らを取り締まるために自らも能力者となった先輩たちは、既に自分を変えることができなくなっていた。
『グレイヴ』のために自らの信念に執着する姿は、『薬物』に依存する精神不安定者そのものだと告白した。
皮肉と矛盾の者たちが私に託す。希望という花を散らすために――
「――残念だが、本日をもって小池陽乃はクビだ。ここには二度と来るな」
何気ない会話から一転、私は突如職を失った。
第六章/『ゲルクラーチ窃盗事件』
盗んだ目的―モノ―がいったいなんなのか分からなかった。
利用方法など知らない。売って金になればそれでいい。
足取りが付く前に高飛びすれば、警察も追ってこれない完全犯罪の三億円事件。
盗んだ者―モノ―がいったい誰だったのか分からなかった。
一つのカラダを二束三文で売り飛ばし、五臓六腑を七里にばら撒く。
とうとう身元も分からない。闇へと消えた完全犯罪の強盗殺人事件。
――俺が教えよう。その盗賊の極意。
始まりさえ起こらなければ、終わりさえも起こらない。
きみからが奪った戦利品―モノ―、それはきみ自身そのもの――。
第七章/『陣保市無差別殺人事件』
人を殺すなんて、大したことじゃないんだよ?
ナイフだって人は死ぬし、銃なんて放てば簡単に逝っちゃうよ?
・・・ね?人って、弱い者だよね?
でもさ、人を殺すより、人をどう処分するかが大変なんだ。
――自然に風化させる、――土に埋める、――水に沈める、――火に葬る。
どれも時間がかかるし、リスクがでかいよ?そしてなにより、――スリムじゃないよ?
すぐそばに死があるから、世界は美しい。ぼくは命を踏み越える力を手に入れたんだ。
そんなぼくが死を与えよう。誰にも裁きを下せない、絶対の死を手向けに贈ろう――
――生きた人を殺すより、生きていながら死んでいる屍鬼を殺す!
さあ、『生きる死体―ゾンビ―』を抹消する、殺人ゲーム―BIO HAZARD―の始まりだ。
第八章/エムシー販売店独占法事件
生まれた時には道は無数にあった。
枝分かれの道が人生の分岐点。どの道に行くかは神頼みで、神様を信じている自分が可愛いかった。
けれども五年、十年と年を重ねていく度に、枝の道は激減していった。
十八歳の冬。私の選べる道は三つしかなく、どれも行き詰まりの人生詰みの激難状態。
神も仏もいないのだと私は現実を知り、救いの手も差し伸べられずに、失言によって足元を掬われる。
人はみな平等ではなく、皆が描いた未来予想図を一人引き裂くが如く塗りつぶした。
未来なんて、ない。希望なんて、ない。所詮この世は矛盾世界。
――純粋とは矛盾色。白版に描いた紫色がすべてを表す透明色。
描いた世界に登場人物はいなく、人物を描くことで物語が始まった。
「・・・なんだ、神はいた・・・。私だったのか」
私は、自分でも気付かない間に大人になっていた。
第九章/怪盗ツインテール事件
吟醸松梅のもとに、一通の予告状が届けられる。
それは決して届くことのない、次元を超えた少女からの手紙であった。
『本ページは2013年ジオシティーズ掲載を個人名を伏せてそのまま転載しております』